風寄のモデルになった風早地方の秋祭りは、とても独特です。
祭りの中心となるのは、国津比古命神社と鹿島神社の、二つの神社です。
国津比古命神社は、風早平野を流れる立岩川の近くにあります。
言い伝えによると、昔、立岩川が氾濫した時に、神社が倒壊して御神体が海へ流されたそうです。
その後、海の近くの村に住む兄弟が、夢で神さまのお告げを聞きました。
兄弟は船を出して、海に沈んだ御神体を網で引き上げるよう、神さまに求められます。
御神体がある場所の目印に、瓢箪と海鵜が見えると、神さまは兄弟に告げました。
兄弟が海に出てみると、海に浮かんだ瓢箪に、海鵜が一羽留まっていました。
それで、そこに網を入れると、御神体らしき物が引っかかったのですが、あまりに重くて持ち上がりません。
その時、近くに釣り船があり、二人の屈強な若者が釣りをしていました。
兄弟がこの二人に事情を話すと、若者たちは快く力を貸してくれました。
すると、見事に御神体は引き上げられ、再建された神社へ戻ることができたということです。
それ以来、御神体が引き上げられた浜辺で、宮出しされた神輿を海に投げ入れて、それを再び引き上げるという、「お引き上げ」神事が、行われるようになりました。
これは、海に沈んだ御神体が、引き上げられる場面を再現したものです。
この神事は神さまの指示により、御神体を引き上げた兄弟の家が、代々取り仕切ることになったと言います。
力を貸してくれた若者たちは、山にある猪木という部落の者でした。
それで、猪木の住民も神さまから、神輿のお供役を仰せつかったそうです。
神輿のお供をする際、猪木部落の者たちは、猪木大魔という鬼の姿に扮します。
そして、海に投げ込んだ神輿を引き上げる時にも、言い伝えどおりに力を貸すのです。
ちなみに大魔というのは辞典によると、強大な威力を持つ悪魔だそうです。
しかし、ここでは大魔は神さまを助ける立場にあります。
悪魔や悪鬼と言うより、山の神のようなイメージですかね。
恐らく山の男たちの力強さと威厳を、大魔という姿で表現しているのでしょう。
そこには、海から引き上げられた国津比古命神社の神さまの、猪木の人々に対する感謝と敬意の想いも、込められているように思います。
またこの祭りには、山の者と海の者が、力を合わせて生きて行くということを、教え諭しているところがあるようです。