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風早の祭り その1

風寄かぜよせのモデルになった風早かざはや地方の秋祭りは、とても独特です。

祭りの中心となるのは、国津比古命くにつひこのみこと神社と鹿島神社の、二つの神社です。

※國津比古命神社(写真Google)
※鹿島神社(写真Google)

国津比古命神社は、風早平野を流れる立岩川たていわがわの近くにあります。

言い伝えによると、昔、立岩川が氾濫した時に、神社が倒壊して御神体が海へ流されたそうです。

その後、海の近くの村に住む兄弟が、夢で神さまのお告げを聞きました。

兄弟は船を出して、海に沈んだ御神体を網で引き上げるよう、神さまに求められます。

御神体がある場所の目印に、瓢箪ひょうたん海鵜うみうが見えると、神さまは兄弟に告げました。

兄弟が海に出てみると、海に浮かんだ瓢箪に、海鵜が一羽留まっていました。

それで、そこに網を入れると、御神体らしき物が引っかかったのですが、あまりに重くて持ち上がりません。

その時、近くに釣り船があり、二人の屈強な若者が釣りをしていました。

兄弟がこの二人に事情を話すと、若者たちは快く力を貸してくれました。

すると、見事に御神体は引き上げられ、再建された神社へ戻ることができたということです。

それ以来、御神体が引き上げられた浜辺で、宮出しされた神輿を海に投げ入れて、それを再び引き上げるという、「お引き上げ」神事が、行われるようになりました。

これは、海に沈んだ御神体が、引き上げられる場面を再現したものです。

この神事は神さまの指示により、御神体を引き上げた兄弟の家が、代々取り仕切ることになったと言います。

力を貸してくれた若者たちは、山にある猪木いのきという部落の者でした。

それで、猪木の住民も神さまから、神輿のお供役を仰せつかったそうです。

神輿のお供をする際、猪木部落の者たちは、猪木大魔いのきだいばという鬼の姿に扮します。

そして、海に投げ込んだ神輿を引き上げる時にも、言い伝えどおりに力を貸すのです。

ちなみに大魔だいばというのは辞典によると、強大な威力を持つ悪魔だそうです。

しかし、ここでは大魔は神さまを助ける立場にあります。

悪魔や悪鬼と言うより、山の神のようなイメージですかね。

恐らく山の男たちの力強さと威厳を、大魔という姿で表現しているのでしょう。

そこには、海から引き上げられた国津比古命神社の神さまの、猪木の人々に対する感謝と敬意の想いも、込められているように思います。

またこの祭りには、山の者と海の者が、力を合わせて生きて行くということを、教え諭しているところがあるようです。

※大正時代の参道。